土曜日, 9月 16, 2006

処女作なんです。お時間ある方読んでやって下さい。

「黄金の左足」


男は天井をじっと見ていた。
男はサッカー選手だ。いや、「だった」というべきかもしれない。
男は、その国でもトップに君臨出来る程のストライカーだった。マスコミはこぞって彼の事を書き、彼の左足にサッカーの世界において最も誉れ高き「黄金の左足」の称号を与えていた。
そんな男も、試合中に怪我をした。単純なラフプレーだった。いつもなら、大したこともなく、すぐに立ち上がれるような、イエローカードも出ないようなディフェンダーのマークだった。しかし男は立ち上がることも出来ず、もだえ苦しむしかなかった。そのまま病院に運ばれ、今、天井を見つめていた。
男の怪我は重く、再起も危ぶまれる状態だった。いや、歩くこともままならないかもしれない
「・・・・このまま・・・そうなのかな?・・・・キープせずにパス?いやそうじゃなくて・・・鉛?・・・足が・・・・・重い。・・・・・これから・・・・このまま・・・。」

そんな状況を受け入れる事も出来ぬまま、思考はとめどなく繰り返され、天井を見つめていた。

結論の出ない思考は延々と続き、男は皮肉めいた言葉が浮かんできた。
「きっと、スポーツ新聞の見出しはこうだ。『金の大暴落』それとも『黄金はメッキ処理だった』こんな感じかな?それとも『金はやはり軟かった』とかね。ハハ。」
涙が頬を伝い、天井がゆがんで見えてきた。
「ちくしょう。オレは黄金の左足じゃないのか?誰の追随も許さない黄金の左足じゃないのかよ?黄金の称号なんてくそくらえだ!」
涙があふれかえり、天井も正視できぬようになり、思わず目をつぶった。
次に目を開けた時、天井の何かが張り付いているのが見えた。
男は思わず、「うわっ!」と声を上げた。

なぜなら、それは全身を金色に塗りたくった50センチくらいのオカッパ頭の少女だったからである。いや、顔つきはとても少女と呼べるようなものではなかった。
言うなれば、全身を金色のメルヘンチックな服でかためた50センチの楠田枝里子が張り付いていたのだから。誰だって声を上げる。
その楠田枝里子がこういった。
楠田「私は黄金の精。わけあって貴方の前に現れました。」
男「は?」こういうしかない。
楠田「あなた耳も悪くなったんですかっ?私は、お・う・ご・ん・の・せ・いっ!」。
男「はぁっ?はぁ・・・。」
楠田「先ほども申し上げたとおりっ、わけあって貴方の前に現れました。よろしくお願いします。」
男「えーと・よろ・しく?お願いします?」
楠田「貴方はこの国でも、かなり有名なオウゴニストですっ。」
男「オウゴォォ・・・はい?」
楠田「つまり、簡単に言うと黄金の名を借りて評される、いわば黄金世界の広告塔とでも言いますか、イメージキャラクターとでも言いますか。つまりオウゴニストですっ。」
男「そうなるんですかねぇ?」
楠田「そうなるんです。」
男「・・・」。
楠田「なのに貴方は!!」
男「はいっ!」
楠田「事もあろうか黄金の名前を辱めるような事態を起こしてしまいました!こまるんです!そんなことじゃぁ。いくらスポーツの世界では怪我はつきものだとはいえ、あの程度のプレイでこんな怪我してもらっちゃぁ」。
男「ふざけんなっ!誰が好きこのんで怪我するん!ン!ンンッ!ンッ!ンンッ!」口を50センチの金色物体がふさいだ。
楠田「話を最後まで聞いてから発言をしてください」。
男「ンガァッ #“!#W&T%#&ンッンン・・・・・・・。」
楠田「とにかく、私たち黄金世界の住人は非常に迷惑を被りましたっ。私たち精霊は人間のイメージに非常に影響を受け易い体質をしていますっ。貴方が怪我をし、退場をしたことによって少なからず私たちの身の回りの精霊達に影響が出てきました。まだ初期の段階なので、被害は甚大とまでは行きません。ですが、このまま捨て鉢になられ、マスコミ等の前に出られるとオウゴニストとして名高い貴方により黄金の評判も付随して下がってしまい無視できない状態になる可能性がっ出てきましたっ」。
一息呼吸をし、また説明を始めた。
「そこで私どもの世界のいわゆる議会で一つの決定事項が導き出されました。貴方もなんとなく話の流れの先がわかってきたかもしれませんが、議会は貴方の足を精霊の力で治すという決定がなされたのですっ!そして、その事を伝える為の伝令係兼実行係兼お目付け役として私が任命されここに来たのですっ」。
男「ンガァ!!。ハァッ ハァッ。・・・・・・・わかったよ!聞きたいことはかなりあるが、要するに足を治してくれるってわけだ。この際、なんでもいい!早く治せるもんなら、さっさと治してくれ」
楠田「当然、治させてっいただきます。がっ!条件がありますっ。」
男「条件?」
楠田「はい!世の中うまい話はないのが常識です。聞いていただきましょう。
先ほどから言ってはおりますが、貴方はオウゴニストです。今から貴方の足を治す事によって貴方は今より黄金の世界に貢献していただきます!貴方の世界において!金の価値をより高めていただきたいと言う事です。」
男「具体的には?」
楠田「はいっ。それは教えられません。そういう決まりになっております。貴方がお考えになる[金の価値を高める事]これを頑張ってください。治すと言っても金箔を貼るのと一緒で根本治療を行うという事にはなりませんからっ、最初は金箔の状態なのを、貴方の思う方法でどんどんと金の純度を上げていき、金無垢を目指すという事です。当然、メリットはあります。金の価値を高めていただければ私ども黄金の精霊の力も強くなっていきます。貴方のプレイもますます磨きがかかっていくことでしょうっ。」
男「・・・・・・・・・・・・わかった。よし、わかった。金箔だろうがなんだろうが。足が治るんだろ?それならばどんな条件でも喜んでだ!さぁ、さっさとやってくれ!」
楠田「かしこまりましたっ。それでは!この呪文で!」と言い放ち金色のステッキを振りかざしこう叫んだ。
「ド・ルーワ・ザドホルナ!」。黄金のシャワーが部屋を満たしたかと思いきや、そのシャワーが男の左足にどんどんと集まり、足の中に吸い込まれていった。
男「うッ うぉぉぉぉぉ!?」
楠田「・・・・・終わりました!立ち上がってみてください。」
男はおそるおそる立ち上がり、自分の足の状態を確かめた。足は後光がさしているかのように光って見えた。いや、実際には光っているわけもなく、輝いているわけでもなかった。だが、足に黄金の力が加わったのが空気で伝わるような雰囲気の足になった。
男「す すげぇ!!今までの痛みや腫れもないし!ウソみたいに軽いぞっ。ぃよっしゃぁあ!ありがとう!マジでありがとう!!」
楠田「お礼を言うのは、まだ早いです。先ほど申し上げましたとおり、金箔を貼ったようなものですから。金の価値を高めていただかなければ、すぐに先ほどのような歩くこともままならぬようになりますので、お気をつけてください。それでは、しばし失礼。とは言っても常に貴方の側におります。見えはしなくなりますが、用がある時はいつでも呼んでくださいっ。」
そう言うや精霊は消えた。
男はまた一人になり、「よぉぉぉしっ!やぁるぞぉ!」と叫び病室を飛び出した。怪我の回復した男は思いつく限りのさまざまな[金の価値を高める]事をやっていった。
まず初めに金相場に自分の今まで貯めていたお金のほとんどをつぎこんだ。幸いにも相場では負けることなく、莫大なお金が手元に舞い込んできた。しかし、儲ける事と金の価値を高める事とは違うと考えた男は、金相場で儲けたお金を新しい金鉱脈を探す団体に資金援助にしたり、金を利用した新薬の研究や、新素材の開発、考えうる金の価値を高めることを意欲的に取り組んでいった。また、金関連のマスコットには進んでなるようになった。金相場の宣伝紹介のイメージキャラクターや、金印のゴマ油のCM。金閣寺や平等院鳳凰堂、釈迦三尊像等金が使われている文化遺産の補修に関連する基金の設立、いろものでは、アダルトビデオの変態プレイ撲滅運動、要するに黄金プレイ撲滅運動等といったきわどいものまで、積極的に参加していった。
中にはなんの効果もないと思われるような物まで含まれていたが、なりふりかまわず行った。
そうした中で、サッカーのプレイはと言えば順調に、得点にからむプレイや逆転ゴールを決めたりと数々の素晴らしい成績を残していった。当然年俸も増えかなり財産が出来た。普通ならば、一財産築けば、後は引退し悠々自適な余生を過ごそうと考えたりするものだが、男は引退をしなかった。彼はサッカーが大好きなのだ。怪我をした時、引退しようと思えば他の道もあったかもしれない。解説者になることも出来たし、別にあの時やめても一生困らない程のお金はあった。しかし好きなサッカーを続ける事だけが彼の一番の望みだったのだ。
金の価値を高めることとサッカーの両立は並大抵の努力ではなかったが彼は続けた。わき目もふらず続けた。何年も何年も続けた。そうしていくうちに彼が取り組んでいた金の価値を高める事の中で非常に社会的貢献度が高いものも数多く生まれてきた。一流のサッカー選手でありつづけ、一流の人格者として世の中で騒がれ続けたのだ。
「よーし、このままでいいんだろう!今まで非常にうまくいってる。このまま!このまま続けていくぞ!」
男は、引き続き行動を起こしていった。何年も、何年も・・・。
そうしていく内に男もどんどん年を取っていった。しかし、日頃の活動のおかげで変わらずのプレーを維持出来た。ある年、男のプレーするリーグもシーズンを終え、ついに男と同期の現役プレーヤーはいなくなり、解説者や監督業に専念するものがほとんどになっていった。そんな中、男は来シーズンも十分プレイ出来そうな自分の体の状態に感謝をし、日々活動を行っていった。
新しいシーズンも近くなり、リーグの各チームも調整を始め、にわかにシーズン前のふつふつとした興奮に世間は包まれていった時だった。チーム内の紅白戦に出場し、ハットトリックを決め勝利をゆるぎないものとした男は今シーズンでの自分の活躍を自覚した。マスコミの取材にも快く応じ、多くのスポーツ誌や新聞記者からの取材を受けた。
次の日、あるスポーツ紙が一面にこうかざったのだった。
「鉄人ハットトリック!今季も自分の充実度に自信!」と。
すると次第に、マスコミや世間はそんな男の事をこう称するようになった。
「鉄人」と。
男の足はみるみるうちに、鈍色に変わっていった。かに見える程プレーから精彩さは消え、試合でのミスが続いていった。試合での活躍が身をひそめ始めると、それと同じくし、さまざまな所からオファーのあった金に関連するイメージキャラクターの依頼もパッタリと来なくなってしまった。
男はある日、自宅の部屋で精霊を呼び出した。
男「おい、いるんだろ?姿を見せろよ。」
精霊「はいっお久しぶりです。そして、非常に残念です。もうご自分でもお解りになっていらっしゃると思いますが。」
男「あぁ、もうダメなんだろう?この状況だ。そうなんじゃないかと思っていた。」
精霊「どうされますか?このまま、まだ頑張り続けますか?」
男「・・・・それも悪くないけどね。でもっ!いいんだ。もういい。プレーがどんどん上手くいかなくなった時、自分でもかなりとまどったけど、それも段々こう思えてくるようになったんだ。『十分やった。俺は一生懸命やれた。』ってね。だから、もう終わりでいいんだ。最初は不純な動機というか足を維持する為に取り組んだ[金]についてのことも、人の役に立つような事がいくつか出始めオレのやったこともまんざら悪い事でもないなぁと思っちゃってさ。金で開発した新薬で助かった人達から手紙とかもらっちゃったりしてさ。なんか違う喜びがあったよ。あの時の怪我がここまで違った形になれたんだ。お前たちにも感謝してる。だから、もういいんだ。」男はなんとも言えない、泣いているとも笑っているとも表現出来ない表情で話していった。
精霊「そうですか・・・わかりました。」
精霊はそういうと軽くステッキを振り回し、男にかけた魔法をといた。
男の足から金の粉のようなものが出始め、ステッキに吸い込まれていった。男の左足はみるみるやせ細り、とてもサッカーを続けていけるような状態ではなくなってしまった。
男は立ち上がろうとしても、左足に力が入らずよろけ、倒れそうになりながらなんとか歩けた。
男「ハハ、なんとか・・・歩けそうだな。まぁ、しょうがない。立って歩けるんだから上出来だよ。」すこし寂しそうな顔をしたが、すぐに晴れ晴れとし表情に戻っていった。
精霊「これで、貴方の足はもう黄金の力もなにもなくなりました。時間が経過しているのであの時の怪我も治ったのでなんとか歩けるのでしょう。まぁ、よかったと言えばよかったのかもしれませんね。」
男「あぁ、そうだな。今まで本当にありがとう。」
精霊「それでは、私の役目もこれで終わりなのでこれで失礼させていただきます。お元気で。」と言い精霊は前とは違った、本当にいなくなったと実感出来るような消え方で去っていった。
「さぁ、これからどうするかな?今までずっとがむしゃらにやってきたからな。少しゆっくりするかな?正直言えば、このままの足だと非常に動きづらいのが困ったとこだな。草サッカーもこれじゃ出来ないだろうし、今までの活動にも支障が出るなこりゃ。」男は足を引きづり引きづりつぶやいた。
それから男はマスコミを集め引退発表を行った。そして金に関連する今までの事業に今まで以上に専念していきたい旨を記者会見で告げた。
「さぁ、これでオレの『黄金時代』もピリオドだな。フフフ。」
その夜、男は今までの身の回りの事を整理をし、いささか疲れたのか早めにベッドにもぐりこみ、明かりを消した。
その時だった。
目の前に薄暗い明かりに包まれた50センチくらいの小人が浮いていた。
小人「私は、鉄の精霊です。黄金の精霊に紹介され、参りました。本来であれば貴方は引退された身。私どももサポートする理由はないのですが、黄金世界からたっての要望があり、貸しを作るということでしょうがなく伺いました。私どもは、黄金世界と違い、大層なことは出来ませんが、貴方の足を普段生活するのに支障がないくらいにすることは出来ます。ただし、黄金世界と違い、何か代償を払っていただくようなことはございません。今回は黄金世界に貸しを作った形ですので。そしてうちはローリスク・ローリターンですから。」
男はまた、なんとも言えないしかし喜びを確かに感じる表情で精霊をじっと見ていた。目には一すじの涙を流しながら・・・。
鉄の精霊「あ、それと黄金の精から伝言です。『怪我を治してから今までの貴方の働きは、私どもにとって[値千金]でした。そのほんのしるしです』と。」

                              平成18年3月19日

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